すぐそこまで

世の中にはわたしの知らないことがほんとうにたくさんあって、無知って一番恥ずかしいなってちゃんと自分で思えたことが今年一番の収穫だったように思う。でも思ったその先、が大事ですね。フットワークは常に軽くいたいなと心では思っていても、年齢を重ねるとどうもそれが難しいなと感じることが増えてきて、なんだかなーなんて勝手に負のループにとらわれて、ふとした瞬間にこれまで買ってきたCDや本はあと何回聴いたり読んだりできるんだろうって考えて、あまりの人生の短さに絶望したりして、わたしはあとどれくらい生きて、どんなところに足を運んで、どんな気持ちになるんだろう。人間の感情は光の速度の17倍の速度で変わっていくらしい。年末ですね。それぞれ両手で足りるくらいだけど、お金を出してでも手元に置いておきたいな、観たいなと思えるものと今年も出会えた喜び、噛みしめたいと思います。

まず、音楽編。定額で音楽聴き放題みたいなものにほんとに興味がなくて、今年聴いたもの=お金を出して購入したもの10枚(順不同)
1.シャムキャッツ『Friends Again』

Friends Again
2.never young beach『A GOOD TIME』

A GOOD TIME (初回限定盤)

3.The xx『I See You』

I See You [帯解説・ボーナストラック2曲収録 / 国内盤] (YTCD161J)
4.HAIM『Something to Tell You』

サムシング・トゥ・テル・ユー
5.高橋飛夢『キオクノシルシ

キオクノシルシ
6.LORDE『Melodrama』

メロドラマ
7.コトリンゴ『「この世界の片隅に」オリジナルサウンドトラック』

劇場アニメ「この世界の片隅に」オリジナルサウンドトラック
8.YOGEE NEW WAVES『WAVES

WAVES※通常盤(CD)
9.CHAI『ほめごろシリーズ』

ほめごろシリーズ
10.台風クラブ『初期の台風クラブ

初期の台風クラブ

ベストアルバムは紛れもなく、シャムキャッツ『Friends Again』で、菅原くん作詞作曲の「Riviera」と、夏目くん作詞作曲の「Travel Agency」の2曲が特に好きです。次点は「Coyote」「Lemon」「花草」かな。シャムキャッツって精神安定剤みたいなところがちょっとあって、彼らの作る曲たちは「寄り添う」ということがほんとに上手で、いつも優しくて大好き。きっと今日本で一番いいバンドってシャムキャッツだと思う。アルバム単位で聞かれることが少なくなった今、この「Friends Again」はアルバムを通して聞くことの素晴らしさを伝えてくれる希少な作品でもある。死ぬ瞬間に聞いていたい。 

続いて、映画編。2016年は劇場で観たのが10本、今年は1本増えて11本でした。
1.矢口史靖『サバイバルファミリー』

2.デミアン・チャゼル『ラ・ラ・ランド

3.バリー・ジェンキンス『ムーンライト』

4.ジェームズ・ガンガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス

5.デレク・シアンフランス『光をくれた人』

6.米林宏昌メアリと魔女の花

7.ジョン・リー・ハンコック『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』

8.行定勲ナラタージュ

9.マーク・ウェブ『gifted/ギフテッド』

10.ジョン・キャメロン・ミッチェルパーティで女の子に話しかけるには

11.瀬々敬久(脚本:岡田惠和)『8年越しの花嫁』

ベストムービーは『8年越しの花嫁』。ほんとに良かった。キャストみんな良かったけど、佐藤健がまじでめちゃくちゃ良かった。今年の私的主演男優賞は『gifted/ギフテッド』のクリス・エヴァンスだと思っていたけど、最後の最後にやられた。佐藤健、あなたです。途中から(いや最初から)芝居に見えないのですよ。もうそこに生きているほんとうの人で、下手したら明日電車で隣り合わせるかもしれないような人で。うまく言葉にできないので、ここで、かつて数ある俳優の中で佐藤健を対談相手に選んだ理由を聞かれたときの木皿泉の言葉を引用したい。

本当に上手な俳優さんがいっぱいいて、みなさん私たちの想像以上の芝居をするんですけど、それは想定しているところの延長線上を上回るという意味の芝居なんです。だけど佐藤健さんは、ヘンっていうか、その根本が全然違うっていうか、私が思っているのと全然違うところで芝居をされるので。

そのときは分かるような分からないようなという感じだったけど、今はこの言葉がすごく腑に落ちるというか。「才能がある」という言葉一つで片づけるのは勿体ないくらいの何かがあるのですよ。この年末年始に『Q10』観直したいな。とにかく宣伝ポスターや予告編だけ見てスルーしている方たち、絶対に観たほうがいいです!!!8年という月日が120分という枠の中に収まっていること自体が奇跡みたいなことなんだけど、ちゃんとそこにあるから!!主題歌のback number「瞬き」もすごく良かった。

観れずじまいのものが13本。観たのと合わせると24本。やはり来年は月2本は観たい。以下、観れずじまいの作品リスト。

・20センチュリーウーマン(マイク・ミルズ

・パターソン(ジム・ジャームッシュ

・人生フルーツ(伏原健之)

・ラビング 愛という名前のふたり(ジェフ・ニコルズ

・はじまりへの旅(マット・ロス)

・スウィート17モンスター(ケリー・フレモン・クレイグ)

・夜空はいつでも最高密度の青色だ(石井裕也

・光(河瀬直美

・ドリーム(セオドア・メルフィ

散歩する侵略者黒沢清

彼女がその名を知らない鳥たち白石和彌

マンチェスター・バイ・ザ・シー(ケネス・ローガン)

KUBO/クボ 二本の弦の秘密トラヴィス・ナイト

 ベストコミックは、西村ツチカ『北極百貨店のコンシェルジュさん』

北極百貨店のコンシェルジュさん 1 (ビッグコミックススペシャル)

ぶっちぎりのベスト!!!動物マンガを描きたいと思ったキッカケの一つが映画ズートピア』、絵柄はムーミンシリーズのトーベ・ヤンソンに影響を受けたとかもう信頼しかない。第5話の伏線の回収のうまさ、鳥肌立ったし、泣いてしまった。絶滅危惧種の動物たちに焦点を当てる、という発想だけでも、もう天才だと思うのです。1話完結なのでどこから読んでもいいし、何回読んでもわくわくする。

次点は、ヤマシタトモコ『違国日記』

違国日記(1) (FEEL COMICS swing)

この漫画家、書店で見かける度に気にはなっていたのだけど、ようやく買いたい!と心から思える作品に出会えたので思い切って購入。大正解。言葉ではなく表情にハッとする感じっていい作品には結構あるけど、その表情が相手の「当たり前」を壊すことに繋がっている感じがすごくてグッと来てしまう。裏表紙に載っている台詞、ずっとずっと忘れたくないくらい尊い言葉。紙質もすごく良い。

他には、こやまこいこ『スキップするように生きていきたい』、吉本ユータヌキ『おもち日和』の2冊に癒された年でした。きっとこれらの漫画を読んでいるときのわたしが一番優しい顔をしていたと思う。別の誰かの日常を見るのってこんなに楽しいんですね。年々、こういう子どものピュアな部分を全面的に出した作品に弱くなってきている気がします。

 吉田秋生海街diary』8巻も良かったな。

そして、小説は窪美澄『やめるときも、すこやかなるときも』

やめるときも、すこやかなるときも

わたしが絶対の信頼を置いている作家。細部までこだわって作ったんだなというのがいつも伝わってくる。この作品は、変にかまえることなく読めたので良かった。小説を読んで、映像化するならこの人だな、とすぐに思い浮かべられる人ってすごいなといつも思っていて、好きな作品が映像化されたときすぐに受け入れられないわたしですが、壱晴さんは加瀬亮がいいなと直感したという、そういう意味でも特別な一冊になったな。

そして、2017年において忘れてはならない、坂元裕二脚本のドラマ『カルテット』。『カルテット』の4人が大好きすぎて、最終回を想像して毎回さみしくなってしまうほどでした。「おいしいご飯を食べながら4人で食卓を囲むシーンは僕の癒しでした。最高でした。」という別府さん(松田龍平)のクランクアップ時のコメント、めちゃくちゃ泣けたなー。個人的に一番泣けたシーンは、マキさんをおびき寄せるために団地の近くで演奏したところかな。年明けにも広瀬すず主演の『anone』が控えていて、毎年のように彼の作品に触れられる幸せ。こんな幸せがあっていいものなのだろうか!まだまだ死ねないね!

2017年は死ぬまでに絶対叶えたいリストにも長い間ランクインしていた、YUKIのステージを観るということもフジロックで叶ってしまったし、念願のベートーヴェンの第九も初体験できたし(ぼろぼろ泣いた)、ああ、人間ってこうやって少しずつだけど自分の求めていたものに触れて、死に近づいていくんだなーと思った年でした。会いたい人にはちゃんと会えたし、おいしいカレーもたくさん食べたし、ありがとう2017。後悔はないか?と聞かれると、ちょっとたじろいでしまうわたしだけど、人生ってそんなもんだよね。では最後にわたしが今年一番心に残っている早川義夫の言葉を。

いい音はなつかしい。どこかで聴いたことがあるような気がする。それは、絵でも文章でもそうだ。ステキな人に出会った時もそうだ。しかし、どこかで聴いたのではない。どこかで見たのでも、触れたのでもない。かつてどこかで会ったのでもない。

 会いたかった人なのだ。求めていたものなのだ。表したかったものなのだ。ずうっと心の中にしまってあったものなのだ。